HarrisonOak’s diary

76年生まれ、妻と息子、娘と犬の五人暮らし。IT系(SAP)の仕事をしている。趣味はギター、マンドリン合奏。

両利きの経営(オライリー/タッシュマン)

タイトルと要約だけをかじってつい読まなかった本の一つが、クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」で、この本を読み始めて改めて、「ああ、読んでおけばよかった!」と後悔した。帯には「イノベーションのジレンマ」を超える、という謳い文句があるが、その続編のような位置付けで、そこで明らかになった「ジレンマ」に対してどう解決するか、ということを豊富な事例で説明されている。それもそのはず、英語の原題は"How to Solve the Innovator's Dilemma"となっている。

 

なかなか厚めの本で380ページほどあるが、書いてあることは決して難解ではなく、理論自体も(本で紹介されている範囲では)、日本語のサブタイトルである「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く、に集約されている。この「二兎」とは既存事業と新規事業のことで、「深化」と「探索」という言葉でも何度も何度も登場する。

 

そんなにシンプルなのになぜ出来ないのかというと、それらはゴール、条件、仕事の仕方が全く異なるため、両立させるには卓越したマネジメント能力とリーダーシップの両方が必要となるからだ。ここでのリーダーシップは2つあって、一つは新規事業のリーダーシップ、もう一つには既存事業と新規事業を両立させて会社を推進するリーダーシップとがある。本書で語られるのはほとんどが後者のリーダーシップで、そこには新規事業を見極める力や信じきる力、育てる力も含まれている。

 

この本を読むと、イノベーションは決して天才の閃きだけで起きているものではないことがよくわかる。いや、閃きそのものは必要なのだけれど、それはほんの一握りの天才だけでのものではなく、ましてや日本人に失われてしまったものでもない。日本ではイノベーションが産まれていないのではなく、育てられていないのだ。大きな要因はサクセストラップだが、本書に紹介されている豊富な事例を見ると世界的に見てもサクセストラップから逃れるのは実に難しいことであることがわかる。

 

ちなみに、解説が秀逸で、特に入山教授の冒頭の解説は完璧な要約になっている。